2007年11月号 付録 特集号

T.繊維学会・秋季研究発表会における「高強度繊維開発」の発表概要

基調講演 高強度PET繊維の開発  鞠谷 雄士 予稿集 2007 p91,92

  研究目標

ポリエステルなど汎用繊維の強度を現状強度(1GPa)の2倍にする。その時のコストは2倍以下に抑える。


  研究の方針

繊維の製造プロセスは、原料の重合から溶融押出し、紡糸,延伸・熱処理など多岐に亘る。
研究の方針として、材料面からは、分子量制御技術や添加剤技術の開発、溶融紡糸の観点からは、高強度化へのポテンシャルの高い未延伸繊維の製造を目指す溶融構造制御技術の開発、さらには,延伸・熱処理技術の高度化、および評価・解析技術として,繊維の製造過程の解析、高強度化した繊維の高次構造解析,繊維の破断機構の解析などを総合的に進めて来た。
繊維の製造プロセスと研究テーマの概略との関係を図に示す。



研究の進捗
1.分子量制御技術(材料技術)

 溶媒膨潤重合、固相重合などによる高分子量PETの製造技術、超臨界二酸化炭素、添加剤、ポリマーブレンドによる高分子量PETの粘度低下技術や高次構造制御技術、押出過程における分子量低下挙動の基礎解析と分子量低下抑制技術、複合紡糸系を利用した分子量分布制御技術などに関する検討を進めた。特に、ある種の添加剤の利用により延伸性の高い未延伸繊維が得られることが明らかになった。
さらに、添加剤効果の発現機構についてもPETと添加剤の相溶性に関する解析を中心に検討を行った。


2.溶融構造制御技術

 紡糸口金近傍から紡糸線に至る流動場の制御を通じて高強度化しやすい構造を有する未延伸繊維を得ようとする技術である。未延伸繊維は基本的に低配向非晶の構造をもつことから、御可能な構造として、具体的には分子鎖のからみ合いの状態の制御などを考える必要がある。 ここでは、ノズル内の拡大縮小流の効果、ノズル径の効果,吐出温度の効果、紡糸ノズル直下の紡糸線を炭酸ガスレーザーで加熱する効果、複合紡糸の効果などを中心に検討した。さらに分子量の変化に伴う最適紡糸条件の変化という観点からの検討も行った。 その結果,炭酸ガスレーザー加熱技術を中心に、単なる高強度化のみではなく、高強度でありながら伸度の高い繊維、すなわちタフネスの高い繊維を得ることに成功した。


3.延伸・熱処理技術

 紡糸過程に関しては、上記の溶融構造制御技術と延伸・熱処理技術の境界は曖昧である。まず紡糸線の制御技術として多段液体恒温槽の効果および紡糸線上での加熱ロール等の効果などについて検討し,タフネスの高い未延伸繊維を得ることができた。さらに、オフライン延伸について2項で得た繊維の強度を引き出すための手段としてのレーザー加熱延伸,多段延伸などに関する検討を行うとともに、未延伸繊維の延伸性の経時変化に関する解析も行った。


4.評価解析技術

 紡糸挙動のオンライン計測に関しては、溶融構造制御技術と関連して温度、速度、直径などの計測を行った。さらに、放射光施設Spring8のハッチ内で高速紡糸を行い広角X線回折像の撮影を通じて紡糸過程中の結晶化挙動を追跡する技術を確立した。一方、紡糸挙動の理論解析に関しては、レーザー加熱の効果を加えた数値解析を行うとともに、紡糸過程中のからみ合い構造の変化を、高分子系の粗視化分子動力学モデルであるNAPLESを用いて解析した。一方、高強度化したPET繊維の高次構造を小角X線散乱像の詳細な解析を通じて検討した。さらに繊維の破断機構を引張過程中の構造変化のオンラインSAXS測定による解析、引張試験による破断の原因となる欠陥の解析などを通じて検討した。



PETの高分子量化とその押出技術
  垰口信一、鞠谷 雄士

 ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維の高強度化手段の1つとして高分子量化技術が挙げられる。これは、構造欠陥となる分子鎖末端を減らすことにより繊維の高強度化を達成しようとするものである。繊維の高分子量化を達成するためには、原料PET樹脂の高分子量化と併せて、溶融紡糸過程での分子量低下抑制が重要となる。
これまで高分子量化については、熱媒膨潤重合と固相重合を組み合わせてIVが1.5〜2.4dlfgのPET樹脂を調製してきたが分子量と分子量分布の関係、溶融押出系内での熱分解速度の解析結果が示すように、ほぼ同等の特性を示す高分子量化PET樹脂が、固相重合のみで得られるようになった。現在、固相重合に関する諸条件をさらに詳細に検討している。また、溶融紡糸過程での分子量低下については、押出機内での分子量低下が大きいことから、各種押出条件の変更による分子量低下抑制への効果とその機構について検討を進めている。


PET溶融紡糸における異流動性成分が繊維構造・物性に及ぼす効果
  山崎 斎、鞠谷 雄士

 ポリエステル中に異種のポリマーや添加剤を加え、紡糸性や繊維物性を改良する研究は数多く見られる。ポリエステル(PET)繊維の高強度化の方法の一つとして、元々樹脂成形時の結晶化核剤として開発された新規な化合物(以降NCAと略す)に着目し、それをPETにブレンドし、高速紡糸、更には熱延伸を行った場合に得られる繊維の構造・物性について評価した。更にNCAが繊維構造形成に及ぼす効果、並びにPET樹脂とNCAとの相溶性について種々検討した。
PETにNCA添加して紡糸した時の吐出圧と押出繊維のN値の関係はNCAを添加することにより、僅かにIV値は低下するが、同一の紡糸温度で比較した揚合、上記関係は低吐出圧側にシフトし、いわゆる減粘作用があることが明らかになった。また、NCA添加の紡糸実験において、as・spun糸の引張試験では、Blank対比高歪領域で応力低下が観測され、引続きその糸をofflineで熱延伸を行った結果、NCA添加品はBlank対比延伸倍率が向上した。現在、上記紡糸条件の範囲で、強度1.6GPaの延伸糸が得られている。


溶融紡糸における超臨界二酸化炭素利用の検討
  濱野 陽、鞠谷 雄士

 超臨界二酸化炭素(SC-CO,)の特徴を活かしたPET繊維の高強度化について、重合、紡糸、延伸の各工程での利用を検討した。特に溶融紡糸技術を基本とした技術の中でのSC-CO2の利用方法として次の三つの検討を行った。
1)SC-CO2の可塑化効果を利用した、高分子量ポリマー押出技術の開発。
2)SC-CO2雰囲気を用いて冷却することによる紡糸線制御。
3)SC-CO2雰囲気中での延伸。

(1)に関しては、SC-CO2を注入することにより溶融押出時の粘度が低下することを確認した。しかし実行程において効果を与えるに充分な量のSC-CO2の練り込みができなかった。
(2)に関しては、高圧中雰囲気に溶融ポリマーを連続的に押し出して冷却し,その 後大気圧中に取り出す装置を開発した。これを用いた検討により超臨界に至らない高圧炭酸ガス中でも、紡糸線の挙動は変化し、その結果興味深い物性を示す繊維が得られる事が分かった。
(3)に関しては、可塑化効果、繊維物性の変化が確認された。しかし、連続処理を 行うためには大きな困難を伴うことも確認された。

紡糸筒の長さを変更して、紡糸可能な領域を確認した結果、紡糸筒を長くすることにより、高い圧力を掛けても紡糸可能であることが見出された。未延伸糸については、従来法で得た同程度の複屈折を有する繊維に比べ自然延伸比が増加しているという結果が得られた。高圧炭酸ガス中での紡糸挙動の特徴は、以下のように考えることができる。冷却媒体を大気圧の空気から高圧の二酸化炭素に変えることにより、紡糸線から媒体への熱伝達特性、媒体中を通過する際に紡糸線に付与される摩擦抵抗力が変化する。
一方、減圧部では二酸化炭素の噴出力により紡糸線は牽引力を受けるほか,断熱膨張による媒体の急激な温度低下による急冷効果も加わる可能性がある。このような特異な条件で繊維が形成されることが、従来にない細化挙動の付与、あるいは温度・応力履歴の付与につながり、特徴を有する未延伸繊維が形成されたものと考えることができる。


紡糸腺への炭酸ガスレーザー照射によるPET繊維の高強度化
  高田 悟史、鞠谷 雄士

 PETなどの合成繊維の一般的な高強度化技術は、高分子量化した樹脂を高配向化させるものであるが、単純に高分子量化した樹脂で紡糸を行っても紡糸性・延伸性が低下するため、高強度繊維を得ることは難しい。
高強度繊維開発を目的とした高分子量ポリマーの溶融紡糸には、高い紡糸温度が必要になる場合が多い。ポリマーを加熱する方法のひとつとして、紡糸ノズル直下の紡糸線を炭酸ガスレーザー照射により急加熱し、熱分解を抑制して擬似的に高温紡糸する方法について報告した。
本検討では炭酸ガスレーザーを照射する紡糸方法において、口金孔径変更による高温変形の促進、レーザー照射方法変更による紡糸の安定化、PETの高分子量化の効果について検討した。紡糸試験および延伸の結果、D1.0mmφのノズル使用時には延伸後の到達強度11.5cNldtex(1.61GPa)であったのに対して、DO.3oφのノズルを使用した場合にはレーザ照射紡糸によって得られた延伸糸では、延伸後の到達強度が12.4cN/dtex(1.72GPa)まで強度増加した。
また、紡糸線のさらなる加熱のために高パワーのレーザーを照射するとPETの分解や断面内構造分布、繊維の太さ斑などが生じやすくなる。そこで、高パワーのレーザービームを分岐し、複数の弱いレーザービームにして紡糸線に照射する手法について検討を行ったので、その結果についても報告する予定である。


紡糸線制御によるPET繊維の高度化
  仲原 健介、鞠谷 雄士

 溶融紡糸過程において溶融吐出直後の紡糸線上で分子鎖の絡み合い構造を制御する事で強度物性に影響を与える事が可能との仮説から、紡糸線上に熱ロールを導入する検討を行っている。
これらによって紡糸線の温度と変形履歴を制御する事が可能であり、溶融状態で絡み合い構造に影響を及ぼす事が期待される。得られた未延伸繊維は、比較糸と比べて同一伸度あたりの強度が大幅に増加した。紡糸速度1000m/milで得られた比較糸より自然延伸比が低下しているにも関わらず伸度が増加するという特徴がある。
また、得られた繊維に延伸熱処理を施しても同様の高タフネス化傾向は維持されている。
我々の研究で液体恒温槽を2段組合せた場合に同様の結果が得られる事を既に報告しているが、今回の検討ではより安定して糸斑の少ない高タフネス糸を得る事に成功した。


複合溶融紡糸とレーザー延伸によるPET繊維の高度化
  仲田一尋、中村文彦、大越豊、後藤康夫、奈倉正宣、高田悟史、鞠谷 雄士

 二つのポリマーを組み合わせて溶融紡糸を行う複合溶融紡糸法では、それぞれのポリマーの固化温度や活性化エネルギーの違いにより単成分で紡糸した繊維とは異なる構造を持つ繊維が得られることがわかっている。
本研究ではPETとポリスチレン(PS)を組み合わせて複合紡糸したPET繊維を延伸することによって,高強度PET繊維の作製を目指した。複合形態にはこつのタイプ(芯鞘型とサイドバイサイド型)を採用し、前者は溶媒によるPSの溶解、後者は剥離によりPET繊維を取り出した。また、延伸にはレーザー延伸法を用いた。
レーザー延伸法はレーザー光を用いて繊維を急速に加熱し,瞬間的に引き伸ばすため、紡糸時に形成された繊維構造を延伸後の繊維構造により良く反映させることができると考えている。
サイドバイサイド型の試料に関しては、ヒーター加熱による二段目の延伸を加えた。複合紡糸した試料では高強度繊維が得られており、芯鞘型では紡糸速度7km/minの試料において1.0N/tex.サイドバイサイド型では紡糸速度0.5km/minの試料においてO.92Nltexの強度を持つ繊維が得られている。
また、複合紡糸した試料は,単成分紡糸試料と比較すると、同じ複屈折でより高い強度を持つ繊維が得られている。このことは、レーザー延伸した複合溶融紡糸繊維は繊維にかかる応力を支える構造(緊張タイ分子鎖もしくはシシ結晶)が多いことを意味するように思う。


U.高強度繊維に関する5社連名の特許出願紹介
(帝人、東レ、東洋紡績、旭化成、ユニチカ、東京工業大学)

PDFファイルをご覧ください(239KB)



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